『たろうのおでかけ』村山桂子/堀内誠一
小さな子どもにとって一人でお出かけするということは、いつか乗り越えなければならない一つの冒険。初めてそれを経験をする子どもたちは、自分が少しおとなに近づいたような誇らしげな気分に包まれ、道中待ちかまえていることにワクワクドキドキしながら家を出るでしょう。行く先が大好きなガールフレンドの家、しかもお誕生日のお祝いのためとあらば、そのうれしさはなおさらのこと。伸びやかに描かれる元気なたろうちゃんとその仲間の動物たちの姿に、読んでいるわたしたちも楽しい気分にくるりと包まれてしまう絵本です。
さて、たろうちゃんがまみちゃんに贈るプレゼントは、すみれの花とアイスクリームです。アイスクリーム! しかも手作りなのですから、これは大変! 急がなければすぐに溶けて、せっかくのプレゼントが台無しになってしまいます。たろうちゃんが思わず走ってしまうのも無理はありません。
そんなたろうちゃんの姿を見て、周囲のおとなは注意します。
「そんなに はしっちゃ、だめ だめ だめ!」
「黄信号で わたっちゃ、だめ だめ だめ!」
「横断歩道を通らなきゃ……」
そのたびに、たろうちゃんは「いそいでいるのに、つまらない」と思うけれど、けがをするのは嫌なので、おとなたちの言う通りにして先を急ぎます。
やがてたどり着く緑の広い原っぱ。空の青と草の緑の中、すっと伸びる真っ白な道がまぶしく光ります。ここなら思いきり走っても、だれにも「だめ」とは言われません。にっこり笑ったまみちゃんが向こうに立っているのが見えます。たろうちゃんは体中に喜びをあふれさせながら、表情豊かな仲間たちと、原っぱを駆け抜けるのです。
最後の原っぱにたどり着くまで、「だめ」と言われ続けるたろうちゃん。それでもちっとも窮屈な感じがしないのは、歌のように楽しいリズムを刻む文章のおかげかな。要約してしまえば「おでかけのときは交通ルールを守りましょう」というお話なのに、説教くささは微塵もなし。本に出てくる「守るべき注意事項」は、楽しいお話とともに自然と子どもたちの心のなかに入っていくことでしょう。
画面では、堀内誠一さんの絵が光ります。色鉛筆の元気よい線で描かれるたろうちゃんと 動物たちは、とっても無邪気で表情豊か。ぞろぞろとみんなでお出かけする光景に、行列が大好きな子どもたちは目を輝かせます。
すぐれたグラフィックデザイナーであった堀内さんの技量を感じさせるのは、なんといっても背景に描かれる街並みや車たち。ずらりと並ぶお店の看板や車のデザインが、なんともしゃれているのです。特にレタリングの美しさは一見の価値あり。車には実在の企業のロゴなども見られて、そんな発見も楽しめます。
ただ一つ惜しむらくは12ページ。
ばすや じどうしゃや おーとばいが あとから あとから とおります。という文章なのに、数々の車のなかにオートバイの姿が見当たらず、うちの息子はいつも「オートバイはどこ?」と探しています。これだけ緻密にさまざまな種類の車を描くのであれば、文章に登場するものは漏らしてほしくなかった……。
しかしそれは小さなこと。元気でかわいい、この小さな冒険物語、車がたくさん出てくることもあって、長男(3歳9カ月)は喜んでながめているのでした。
▼オススメ度
よん(母)------------------> ★★★
ルンバ(長男/3歳9カ月)-> ★★☆
▼『たろうのおでかけ』詳細 >>amazon >>bk1
▽村山桂子(作) 堀内誠一(絵)/福音館書店<こどものとも傑作集>(1963/04/01初出 1966/07/01傑作集として再刊)
▽対象年齢:読んであげるなら3歳から/自分で読むなら小学校初級むき
▼関連情報
▽村山桂子(むらやま・けいこ)プロフィール:1930年、静岡県生まれ。文化学院卒業後、お茶の水女子大学幼稚園教員養成過程修了。1965年まで幼稚園に勤務。1955年、第二回全国児童文化教育研究大会童話コンクールに入選。
▽堀内誠一(ほりうち・せいいち)プロフィール:1932-1987年。東京生まれ。グラフィックデザイナー。カメラ雑誌、ファッション雑誌(『anan』『Olive』…)などのアートディレクターを多く手がけたほか、イラストレーターとして絵本その他の児童書に活躍。







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